FC2ブログ















ユミル「いけすかない」ナナバ「私のことが?」


1 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/08/23(金) 20:50:58 ID:Rh/4J3uM

~朝・食堂~

ユミル「クリスタと班がわかれちまうなんて……」ドヨーン

クリスタ「そんなに落ち込まないで。兵団が同じなんだからいつでも会えるでしょ?」

ユミル「そうは言ってもな…お前はさみしくねぇのかよ。冷たいな、クリスタ」

私が拗ねてみせると、クリスタは困ったように眉尻を下げた。

調査兵団に入団後、数日間は新兵だけで講義を受けたり訓練をしたりしていたのだが。

とうとう新兵もいくつかの班に振り分けられることになった。そして私たちは別々の班になってしまったのだった。

班ごとの訓練は今日から開始される。つまり今日から、私たちが一緒にいられる時間が減ってしまう。

どこのどいつがこんな悪意ある班分けをしたのか。悲嘆と憤りを隠さない私を、クリスタはしかしやさしく慰めてくれる。

クリスタ「そうは言ってないでしょ。…私だって、ユミルと違う班なのはさみしいよ…?」

ユミル「ああもう! ほんと、お前って可愛い奴だな!」ギュウウウ

クリスタ「ちょっ! ここ食堂! 人目があるのに抱きつくなんて…」アセアセ




45 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/08/29(木) 00:49:40 ID:UPydrk2k

ユミル「……、他にも何か、私に仰りたいことでも?」

ナナバ「ああ、うん、訊きたいことならあるかな」

ユミル「何でしょうか」

答えてやるからさっさといなくなってくれ。私の顔には隠しもせずにそう書いてあったにちがいない。

そんな私の内心を知ってか知らずか、ナナバ班長は相変わらずのポーカーフェイスのまま、口をひらいた。

ナナバ「君は私のことが好きなのか嫌いなのか、どっちなんだろうと思ってね」

ユミル「はぁ?」

予想外の質問に、上官に対してとは思えないリアクションをしてしまう。

好き嫌いを問われたのはわかる、が、その意図がわからない。何故そんなことを訊く。訊いてどうする。

ユミル「……ひとつ、質問をしても?」

ナナバ「いいよ。質問に質問で返すのは、あまり褒められたことじゃないけれど」

ユミル「ありがとうございます。……なぜ、そういったご質問をされるのか、お聞きしたいんですが」

ナナバ「なぜって……」


46 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/08/29(木) 00:59:53 ID:UPydrk2k
今日の投下終了。読んでくださった方ありがとう。
もうちょっと書こうと思ったけど眠気が限界。また次回宜しくお願いします。

47 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/08/29(木) 06:35:22 ID:zPgTQmQI
おっつ

48 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/08/29(木) 11:20:24 ID:.0Fo.5Gg
楽しみしてる

49 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/08/29(木) 15:19:35 ID:nwE2TyyM
乙乙

50 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/01(日) 08:38:14 ID:SB.U3gzs
この三人の組み合わせ好きだ

51 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/02(月) 19:07:19 ID:VmWwNb52
>>1です。投下します。

52 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/02(月) 19:09:18 ID:VmWwNb52

彼はいったん言葉を切って、ふたたび私をじっと見つめた。

ナナバ「初対面ではあんなに厳しく睨みつけてきたのに、今度は褒めちぎってくるなんて」

ナナバ「いったいどういう駆け引きのつもりなのか、知りたくなるのは当然だろう?」

ユミル「…………」

何を言い出したんだこの人。頭が痛くなってきた。私はこめかみを押さえながら、つとめて冷静な声を絞り出した。

ユミル「褒めたつもりはありませんよ、あれはただの一般論ですから」

ナナバ「それでも、女性に面と向かって言われたら意識してしまうよ」

ユミル「女性? 誰のことか、わかりかねます」

ナナバ「当然、君のことだけど」

ユミル「…私よりはナナバ班長の方が、よほど『女』らしいですよ」

嫌味で無礼な揶揄にも、彼は態度を変えなかった。どころか、澄んだ双眸を面白そうに細めて言うのだ。

ナナバ「そんなことない。――君は可愛いよ、ユミル」


53 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/02(月) 19:11:02 ID:VmWwNb52

甘いマスクで甘いセリフ。女性なら誰もがときめかずにはいられないだろう。

が、私はそうではない。生憎と私がときめくのは、クリスタにだけだ。可愛らしく赤面するなんて芸当はできやしない。

ユミル「…………」ゾワッ

代わりに、冷や汗だか脂汗だか、とにかく嫌な汗が背中を伝うのがわかった。かつてない勢いで鳥肌が立つ。

よくもまあ素面でそんな歯の浮くようなことが言えたものだ。しかも、私相手に。

理解の範疇を超える事態に、目の前の美貌が空恐ろしくさえ感じられ、私は二の句が継げなくなった。

そのとき。

クリスタ「い、いくらナナバさんでも、ユミルをからかうのは許しません…!」

毅然と声を上げてくれたのは私の女神だった。

ナナバ班長の視線が私からそれて、クリスタに向かう。わけのわからない閉塞感から解放され、私はそっと息をついた。


54 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/02(月) 19:11:49 ID:VmWwNb52

ナナバ「からかったつもりはないんだけどな」

クリスタ「それでも、ユミルが困ってるのは見過ごせませんから」

こわばった声で応じるクリスタの横顔は、怒ったようにも怯えたようにも見えた。

クリスタ「……私たちはこれで失礼します。行きましょう、ユミル」

ユミル「あ、ああ……」

クリスタが私の腕をつかんで立ち上がる。いつにない強引さで引っ張られ、私も席を立った。

ユミル「……失礼します」

かろうじてそれだけ言い残して、私はクリスタに引きずられるように食堂を後にした。

ユミル「――クリスタ。おい、クリスタ、待てって」

クリスタ「…………」

呼びかけても答えない、歩みを止めないクリスタの背中を、私ははらはらしながら追いかける。

廊下の突き当たり、演習場へ続く扉の前で彼女はようやく足を止めた。振り返ったその顔を見て、私はぎょっとした。


55 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/02(月) 19:12:52 ID:VmWwNb52

ユミル「ク、クリスタ? どうしたんだよ、お前…」

クリスタ「ユミル……」

クリスタは今にも泣き出しそうな顔をしていた。涙を湛えた青い瞳が、私を見上げて揺らぐ。

クリスタ「ごめんね。二人が話してるの、邪魔しちゃった…」

ぽつりと、震える声で呟く。私はおろおろとクリスタの髪を撫でた。

ユミル「何言ってんだ、お前が助け舟を出してくれて助かっ…」

クリスタ「ちがう。…ちがうよ」

クリスタがかぶりを振って私の言葉をさえぎった。その拍子に、ぽろぽろと涙が零れて、白い頬に落ちた。

クリスタ「私ね、嫉妬しちゃったの。…二人が話してるところ、見たくなかったの」

クリスタ「ナナバさんに、ユミルのこと、話さなきゃよかった……」

ユミル「…………」


56 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/02(月) 19:15:13 ID:VmWwNb52

恐らくナナバ班長の言動は、彼の身辺を嗅ぎ回った私への単なる意趣返しに過ぎない。

が、クリスタにしてみれば、敬愛するナナバ班長を私にとられたような気がしたのかもしれない。

まさか、こんなかたちで傷つけてしまうなんて。痛切な後悔に襲われる私に、クリスタが言った。

クリスタ「ごめん。こんなこと言われても、ユミルを困らせちゃうね」

ユミル「そんなことねえよ。私の方こそ、悪かった…お前の気持ちも考えずに」

ハンカチを取り出して、クリスタの頬をそっと拭う。

ユミル「もうナナバ班長には近づかないし、話もしないようにする。…だから、安心してくれ」

クリスタ「……うん」

わずかに目元を腫らして、クリスタはそれでも私に笑ってくれた。


57 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/02(月) 19:47:49 ID:VmWwNb52


~ウトガルド城跡~

いつ巨人と遭遇するかわからない状況の中に放り出されて、半日。

心身ともに疲弊しきって、見張り役の上官以外は皆言葉少なに火を囲んで休息している。

同じように疲れ果てていたが、私にはやることがあった。

酒に貼られたラベルの『読めない』文字。ああいうものが他にもあるなら、他の連中に見つかる前に処分しておきたい。

こっそりと食い物を漁るふりをして、朽ちかけた木箱の中身を検分する。

――と、私の背中で、ドアが開く音がした。古い蝶番が軋む、耳障りな音。

ユミル「!」

ナナバ「何をしているの」

とっさに振り返って身構えた私が見たのは、いけすかない美貌の持ち主だった。

ユミル「…腹の足しになるモンでも残っちゃいないかと思いまして」

ナナバ「そう。収穫はあったかい?」

ユミル「残念ながら。ガラクタばっかりですよ」

木箱に突っ込んでいた片腕を抜いて、ナナバ班長に向き直る。手元を照らしていた灯りが、ちらちらと危うげに揺れた。


58 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/02(月) 19:56:24 ID:VmWwNb52

ナナバ「なんだか久しぶりだね」

ユミル「…最後に話してからひと月も経っちゃいないでしょう」

彼の言葉をすげなく一蹴する。しかしあれから長いこと会っていないような気がするのは、私も同じだった。

壁外調査から今日まで、あっという間の出来事だ。このひと月あまりで、調査兵団の置かれた状況は刻々と変化した。

『裏切り者』をあぶりだす作戦で、多くの兵士が殺された。そしておそらく私たち104期に共謀の疑惑が向けられ…

今では、壁が壊されたのではないかという絶望と恐怖に晒されている。

それでもこの人は、いつもどおり落ち着き払っているように見える。

繊細そうな見かけの割に意外と図太いところもあるらしい。私は多少、彼に対する認識をあらためた。

ユミル「それで、何かご用でも?」

ナナバ「用、というほどのことでもないんだけど」

ユミル「だったら私なんかと無駄話してないで、見張り交代の時間までお休みになっては?」

ナナバ「強いて用件を挙げるなら…夜這い、かな」

ユミル「……は、」


59 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/02(月) 20:09:39 ID:VmWwNb52

どうしてこう…私の虚をつくことばかり言うのだろう。呆然としている私を見て、ナナバ班長はわずかに表情を和らげた。

ナナバ「君は相変わらずだね」

ユミル「どういう意味です」

ナナバ「クリスタ以外は、目に入らない?」

その穏やかな口調は、いつもと変わらないのに。声音がわずかに焦れたような響きを帯びていた。

ユミル「…そうですね。私は、クリスタのことだけは守りたいと思ってますよ」

ナナバ「……うん」

つと目を細めて彼は頷いた。訊く前から答えなどわかりきっていたと言いたげに見えた。

ナナバ「君のそういう、大事なもののためになりふり構わないところが…しなやかな強さが、私は羨ましいんだ」

ユミル「…そりゃ光栄ですね。上官から羨望の眼差しを浴びるなんて」

真摯な言葉をわざと避けて、のらりくらりとはぐらかす。

いつ死ぬともわからない状況で、誰かと心を交わすのはおそろしかったからだ。

私が命をかけるのは、自分と、クリスタのためだけでいい。それ以上は、いらない。


60 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/02(月) 20:13:34 ID:VmWwNb52

ナナバ「――ユミル」

なのにこの人ときたら、私の気持ちなど知りもしないで名前を呼ぶのだ。

ナナバ「生きて戻れたら、キスしてくれないか」

ユミル「…こんな状況でずいぶんと浮かれたことを言いますね。楽観的なひとだ」

ナナバ「私はむしろ悲観的なたちだよ、いつだって最悪の状況を考えてしまう」

茶化す言葉に答えた声は、いつになく沈んでいた。うつくしい双眸を力なく伏せた彼は、酷く弱って見えた。

ユミル「兵士としてなら、それで間違っていないでしょう」

私はどうしてこの人を慰めるようなことを言っているのだろう。突き放してしまえばいいのに。

ナナバ「優れた兵士は、最悪の状況を想定しながらもそれに屈しない精神と、戦う意思を持っている」

ナナバ「だから私も、そうありたいと思うよ。必ず生きて帰ると…最後まで希望は捨てずに戦いたい」

ナナバ「君が見ていてくれるなら、私もそんな兵士でいられるような気がするんだ」

ユミル「…何故?」

私の問いかけに、彼は笑った。すこし皮肉な――いつもの彼らしい表情だった。

ナナバ「男はね。気になる女の子の前では、かっこつけたい生き物なんだよ」


61 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/02(月) 21:17:12 ID:gApczr4M
とりあえずパンツ脱いでおきますね

62 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/02(月) 21:40:05 ID:xN.4wjRY
やべぇナナユミいいな

63 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/07(土) 13:32:28 ID:/z2TDxD.
支援

64 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/07(土) 13:56:57 ID:97Nue9Zc
期待!

65 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/11(水) 03:08:55 ID:/grPWjgY
age

66 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/11(水) 18:13:13 ID:tD9ulmeo
お久しぶりです。>>1です。保守とか支援とかありがとうございます。
残り少ないですが投下していきます。

67 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/11(水) 18:14:09 ID:tD9ulmeo

告白めいた言葉を受けても私の心は揺るがないはずだった。一番大切なものは、すでに決まっているのだから。

ユミル「冗談でもそういうことは言わないで下さい。クリスタが泣くところは、見たくないんでね」

ナナバ「クリスタ?」

私の言葉を訊き返し、ナナバ班長が意外そうな顔をする。

照れ隠しにか。それともクリスタから好意を寄せられていると、気付いていなかったのだろうか。

ナナバ「君は何か誤解してるようだけど…クリスタは私のためには泣かないと思うよ」

今度は私が怪訝な顔をする番だった。ナナバ班長はちいさく肩をすくめてみせる。

ナナバ「――彼女が泣くとしたら、君のためだ」


68 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/11(水) 18:15:15 ID:tD9ulmeo

ユミル「私がクリスタを泣かせるようなこと、するわけないでしょう」

ナナバ「どうかな。近くにいすぎたら見えないこともあるし」

何もかも見透かしたようなことを言う彼に、苛立ちがつのる。

私は再びナナバ班長に背を向けた。がらくたばかり詰まった木箱に、視線を落とす。

ユミル「そろそろ皆のところに戻ってはどうです。あらぬ誤解を受けたくないなら、」

ナナバ「誤解じゃないなら、かまわないの?」

ユミル「それじゃ私が困るんですよ。……もう、戻ってください」

頼むから、これ以上私を揺さぶらないでくれ。

呟くような声はなんだかやけに子どもじみてたよりなく、私はそれきり、唇を閉ざした。

ブーツが石畳を踏む音が遠ざかる。悲鳴のように軋みながらドアが閉まるのを聞いて、押し殺していた息を吐いた。


69 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/11(水) 18:16:01 ID:tD9ulmeo


クリスタ「ナナバさん」

ナナバ「ん?」

クリスタ「何を話していたんですか…彼女と」

ナナバ「ああ、うん…君を泣かせるなと、釘を刺された」フフ

クリスタ「…………」クス

クリスタ「ばかですね、彼女は」

ナナバ「そうだね。あんがい、鈍いね」

クリスタ「どうして気付いてくれないんでしょうか」

クリスタ「…私には、ユミルしかいないのに」




70 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/11(水) 18:16:38 ID:tD9ulmeo

普段ならこんな失態は犯さない。少なからず動揺していたんだろう、私は。

『読めない』はずの文字の意味がわかることを、ライナーの前で明かすなんて。

驚愕と猜疑のないまぜになった視線が刺さる。それが明確な敵意に変わるより早く、鋭い声が響き渡った。

リーネ「全員起きろ! 屋上に来てくれ! 全員すぐにだ!」

屋上に集まった私たちが見たのは、絶望的な光景だった。

悠然と夜闇の中を歩く、獣めいた巨躯。それに統率されたかのように現れた巨人の群れ。

日没後の侵攻など想定もしていなかったのだろう、さすがの上官も狼狽を隠せていなかった。

ナナバ「新兵、下がっているんだよ」

額に冷たい汗を滲ませながらも、ナナバ班長が前へと進み出た。すらりと抜き放たれた刃が、焚火を受けてひかる。

ナナバ「ここからは立体機動装置の出番だ」


71 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/11(水) 18:17:41 ID:tD9ulmeo

――それは善戦と呼べただろう。最初だけなら。

上官の二人が殺されて戦力が半減したところへ、獣の咆哮に率いられた巨人が大挙して押し寄せた。

ガスにも刃にも限りがある。あっという間に優劣が変わって、始まるのは一方的な殺戮だ。

ガス切れを起こし、ただワイヤーでぶら下がるばかりの彼は、巨人の格好の餌食だった。

いくつもの手が我先にと彼の身体に向かっていく。なまくらの刃では、それを切り払うことも出来ない。

ナナバ「…………」

その刃を、彼は自分の首に持っていこうとしていた。何をしようとしているかは考えなくともわかる。

誰だって、生きながら食われるのは御免だ。

だが彼は言ったはずだ。どんな兵士でありたいか、私に話して聞かせたはずだ。


72 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/11(水) 18:18:35 ID:tD9ulmeo

ユミル「……死ぬな」

口をついて出た声は彼のところまで届くはずもなかった。それでも。

顔を上げた彼と、たしかに目が合った。

巨人の手がその身体を掴み、万力のように締めあげようとする中――彼は震える腕を振りかざした。

ぼろぼろの刃を突き立てる先は、己の喉笛などではなく。

ナナバ「……ッ!」

巨人の手から迸った血飛沫があっという間に蒸発していくのが、夜目にも確認できた。

腱や筋を断ち切るより再生速度の方が上回る。必死の、しかし巨人にしてみれば微々たる抵抗を、彼は何度も繰り返す。


73 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/11(水) 18:19:26 ID:tD9ulmeo

ユミル「……くそ……ッ」

私が命をかけるのは、自分と、クリスタのためだけだ。その気持ちは変わっていない。

――だから私はこんなところで死ぬ気はない。が、あのひとを死なせるつもりもない。

クリスタ「ユミル!?」

私はそのまま、塔から身を躍らせた。

悲鳴のようなクリスタの声を背中に聞きながら、巨人の群れにむかってまっすぐ落ちていく。

視線の先には、驚きに見開かれた彼の双眸。すこし鼻を明かしてやれたような気がして、笑いがこみ上げた。

場違いに笑って、自分の手に歯を立てる。ぶつり、皮膚の破れる感触と共に、全身が閃光に包まれた。


74 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/11(水) 18:47:46 ID:tD9ulmeo

巨人の手首を食いちぎって、緩んだ手の中からナナバ班長の身体をかっさらう。

ナナバ「ユミル……!」

私の名前を呼ぶ声は震えていた。私が敵なのか味方なのか、判じかねているんだろう。

だが、生憎とその判断を待つ余裕はない。大きく口を開けて、彼を口腔に押しこめる。

内側から刃で切り刻まれるかもしれなかったが、どのみち両手が自由にならなければ塔を登ることはできない。

少々の息苦しさや不快感――嫌悪や恐怖には、耐えてもらうしかない。

緩慢に伸びてくる巨人どもの手を蹴落として、私は塔をよじ登る。ぼろぼろの外壁は今にも崩れそうだ。

どうにか屋上に辿り着いて吐き出してやると、ナナバ班長は苦しそうに咳き込んだ。

ナナバ「…ユミル、」

いつもと変わらない目と声だった。異形のものに対する忌避のそれではなかった。


75 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/11(水) 18:55:32 ID:rtXK280k
ナナユミに目覚めた(゜ロ゜)

76 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/11(水) 20:40:17 ID:9C47eMms
やっぱ性別なんてどっちでもイイな

77 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/12(木) 03:38:54 ID:G1DnOibk
ナナユミいいなー!!!!

78 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/20(金) 20:37:35 ID:o/xiY0xw
ラストまであと少しか?頑張れ!

79 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/23(月) 00:01:40 ID:0HekistQ
>>1です。上げておいて下さった方ありがとうございます。
なかなか来れなくてすみませんでした…!投下していきます。

80 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/23(月) 00:05:05 ID:0HekistQ

「ユミル…ねえ、ユミルなんだよね…?」

か細い声に視線をめぐらせれば、じっとこちらを見つめるクリスタと目が合った。

すっかり色をなくした唇を噛みしめて、いつかと同じように目に涙を湛えている。

本当に私のせいで泣かせてしまった。かわいそうな、かわいいクリスタ。

怯えを隠しきれない表情で、それでも彼女は私から目をそらそうとはしなかった。

おずおずと一歩、こちらへ踏み出す。細い両腕が私に差し伸べられる。

ユミル「!」

その瞬間、塔が大きく揺れた。おおかた、巨人どもが塔に体当たりでもしはじめたのか。

放っておけば五分と待たずに塔は崩れ落ちるだろう。クリスタたちを待ちうけるのは、巨人の口だ。

そんなことはさせない。身を翻して再び塔を下りようとする私に、クリスタが追いすがる。

クリスタ「待って! 私、まだ、あなたに……」

コニー「お、おい、クリスタ!」

クリスタの肩を、あせったようにコニーが掴んだ。


81 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/23(月) 00:06:05 ID:0HekistQ

クリスタ「離して! ユミルが行っちゃう!」

コニー「でもよ! あいつは…ユミルは、巨人だったんだぞ…!?」

振りほどこうとするクリスタを必死に引き留めながら、コニーがうかがうように私を見やる。

そうだ。それが普通の反応だ。

馬鹿にしては常識的な反応だとからかってやりたいところだが、今の私にはそれもかなわない。

ライナーとベルトルトは――コニー以上に、私を警戒しているらしかった。

少しでも距離をとりたがるように身構えて、油断なく私の動向をうかがっている。

それはかつて世界中の人間が私に浴びせたのと、同じ眼差しだった。

拒絶。憎悪。忌諱。唾棄すべき異形に向ける、冷たい目。

生まれ変わったなんてクリスタに虚勢を張ったくせに、私は結局何一つ変わっていないのだと、彼らの目が知らしめる。


82 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/23(月) 00:07:11 ID:0HekistQ

重苦しい静寂を破ったのは、ナナバ班長だった。

ナナバ「ユミル。行ってはだめだ」

青ざめながらも、ふらりと立ち上がって私に歩み寄った。

ナナバ「あの数の巨人を、一人でどうにかできるとは思えない。行けば君も食われてしまうんじゃないのか」

おかしなことを言う人だ。私はあなたと同じことをしようとしているだけなのに。

最後まで希望を捨てずに戦う兵士でありたいと、そう言ったのはあなたじゃないか。

何故こうも迷いなく私の名を呼ぶのだろう。まっすぐに私を見るのだろう。

こんな眼差しを、私はこれまでの人生で知り得なかった。未知の感覚は居心地がわるい。

クリスタのことを抜きにしても、やっぱり私はこの人が苦手だ。


83 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/23(月) 00:08:24 ID:0HekistQ

ナナバ「ユミル」

のべられた手を反射的に振り払いそうになったが、どうにかこらえる。

触れた手から、ひんやりした体温が伝わった。

人間同士ならあたたかな体温を伝え合えたのだろうが、今の私は巨人だ。

人には有り得ない高すぎる体温を、しかし彼は恐れなかった。

ナナバ「私もクリスタも、君を嫌いになったりしない。だから、…逃げないでくれ」

ユミル「…………」

ああ、そうか――私は、怖がっていたのか。

巨人だと知られたら嫌われると思っていたから。もう一緒にいられないと思っていたから。

迷いなく近づいてくるこの人が、こわかった。

恐怖の正体がわかってしまえば拍子抜けだ。私の怖れは彼の言葉にあっけなく打ち消されてしまった。

だからなおさら。今ここで、この人たちを死なせるわけにはいかない。

ぐらぐらと揺れる塔から、今度こそ私は飛び降りた。――この先も、一緒に生き残るために。


84 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/23(月) 00:09:11 ID:0HekistQ

―――――――――
―――――――
――――

「……ミル…ユミル、」

誰かの声に呼ばれて、意識が浮上する。縫い付けられたように重いまぶたをどうにか開ける。

涙目の天使が、私を覗きこんでいた。今にも泣き出しそうな顔をしているものだから、つい茶化したくなる。

ユミル「……お迎えに来て下さったんですか、天使様」

さっきクリスタが私にぶつけた、過激な叱咤激励を思い出してからかう。

天国になんて行けるとも行こうとも思ってはいないが、女神さま直々のお説教はかなり効いた。

かすれた声で囁いた冗談に、クリスタはまた涙ぐんだ。

クリスタ「馬鹿なこと言わないで…ミカサたちが来てくれなきゃ、今頃…」

起き上がろうにも全身が重く、身じろぎすらままならない。私はそうそうにあきらめて、力を抜いた。

自分の身体がどんな惨たらしいことになっているかなんて、知りたくもない。


85 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/23(月) 00:10:26 ID:0HekistQ

クリスタ「ユミル……雪山での約束、私も果たすね」

か細い声が私を呼ぶ。見つめかえせば、わななく唇から彼女の決意が紡がれた。


「私の名前、ヒストリアって言うの…」


そうだ。それでいい。元の名前で、胸を張って生きろ。

私はどうやら笑ったらしかった。伏せた瞼の向こうで、ヒストリアのやわらかな吐息が聞こえた。


86 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/23(月) 00:12:22 ID:0HekistQ

次に目を開けたとき、側についていてくれたのは、やはり天使のような美貌の持ち主だった。

ナナバ「クリスタなら、ハンジに呼ばれてね。聞かなきゃならないことがある、と」

ユミル「…………」

私が起き上がろうとするのを察したんだろう。そっと肩を押さえられ、動きを制される。

ナナバ「右の手足と…内臓にひどい損傷を負ってる。動かないほうがいい」

ひどく冷静に惨状を伝えられ、渋面を浮かべた。傷口から蒸気を上げる異常な身体にも動じないでくれるのは有難いが。

ナナバ「心配いらないよ。私たちは君とクリスタに敵意も害意もない。…君には、感謝しているくらいだ」

いつも冷静で落ち着き払っているはずの彼の声が、かすかに滲んで揺れていた。

ナナバ「私たちのために、戦ってくれてありがとう。それから……、」

頬に触れた彼の掌。やわく、輪郭をなぞるように撫でられる。

そんなにも嬉しげに微笑まれたら、もう振り払う気にもなれやしない。


87 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/23(月) 00:13:36 ID:0HekistQ

ナナバ「生きていてくれて、ありがとう。ユミル」

泣きそうな声に名前を呼ばれて思いだす。約束が、もうひとつあったことを。

重りでもつけたように不自由ではあるが、左腕は無事だった。どうにか約束を果たすことはできそうだ。

ナナバ「……? ユミ、…っ」

彼の言葉尻が不自然に跳ねたのは、乱暴に胸倉をつかまれたせいか。

ぐい、と引き寄せて吐息を交わしたのはほんの一瞬のことだったが、それでも約束を果たしたことにはなるだろう。

不意を突かれた彼の唖然とした表情が可笑しくて、目を細めた。

ナナバ「……色恋というより、喧嘩の作法じゃないか、今のは」

決まり悪げな抗議の声を聞き流して、私はさっさとまぶたを閉じた。

彼の温かさばかり、いつまでもくちびるに残っていた。


88 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/23(月) 00:17:47 ID:0HekistQ

>>1です。このSSはこれにておしまいです。進行遅すぎて大変申し訳ない
初めて書きましたが、地の文ありって難しい…!

89 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/23(月) 00:22:41 ID:LVX1Cyig
おつ


だが、>>88のこれにての後が読めないから、続けてもいいのよ?

90 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/23(月) 00:24:29 ID:HGImHL5.
乙 いいものを見た

91 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/23(月) 00:48:18 ID:2Vp2fLjI
ナナユミは素晴らしい
目覚めたよ、乙!

92 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/23(月) 00:57:20 ID:Oz6A2Rao
素晴らしい。すごくよかった
乙です

93 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/23(月) 02:12:40 ID:0HekistQ
続けていいとのお言葉、嬉しいし有難いです。
シリアスなのは難しそうですが、軽めのナナユミ思いついたら書きに来ますー。
乙とか感想とか下さった方、ほんとにありがとうございました。

94 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/09/23(月) 02:37:32 ID:fe1.YRDY
ナナユミいいな
また読みたい!







関連記事
スポンサーサイト
進撃の巨人 | TB(0) | CM(0)

コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://ss2ch.blog.fc2.com/tb.php/288-6bfee1b5